(written by たけひさ)
芝2400メートル。「クラシックディスタンス」と呼ばれる伝統と格式のレース条件。近代競馬発祥の地、イギリスが世界に広めた世代の頂点を決める戦いである「ダービー」と同じ条件。現代競馬が多様化し様々な価値を競うようになっても、最も尊敬を集めるのはやはりこれなのです。
力と土煙の世界の頂点がドバイとアメリカなら、名誉と緑の世界の頂点の1つはここ、フランス凱旋門賞。そしてそれは、日本競馬が世界を目指し、幾度となく跳ね返されてきた高く険しい牙城の1つです。
「世界と戦える馬づくり」。1981年に創設された国際招待競走ジャパンカップはアジアの辺境の競馬が世界と本当に戦えるのかを問うものでした。第1回ジャパンカップは本命の欧州勢は不参加の上、今まで日本が築き上げてきた「芝2400メートル」のレコードタイムを更新されるおまけつきで海外馬に上位を独占されるという惨憺たる結果。
それから40年。ジャパンカップで日本馬が勝つことが当然になり、香港、オーストラリア、ドバイ、そして欧州。様々な海外のGⅠを勝つようになった日本競馬が未だ到達しない高み。三冠馬ディープインパクトやオルフェーヴルを始めとした数多くのGⅠ馬でもなし得なかったフランス凱旋門賞での勝利を日本から祈る日が今年もやってきました。
イギリス・アイルランドから7頭。地元フランスから4頭。ドイツ1頭。そして日本所属が2頭。全14頭による第100回の記念大会が始まります。
芝2400にこだわり続ける国、ドイツ。どれだけ競馬が多様化しようが土着の馬づくりを続け、芝2400の競馬こそ至高の玉として守り続ける欧州守旧派の筆頭。そのドイツから今年は総大将の単騎駆け。馬番1、ゲート12番。トルカータータッソ。
「世界に負けない馬づくり」とはそれすなわち「世界に負けない人づくり」でもあります。日本現代競馬の飛躍を支えた武豊と、彼に託された多くの夢をその背に乗せて。父は英愛2か国のダービー馬Australia。名門オブライエン厩舎から、馬番3ゲート7番。ブルーム。
現代競馬の多様化の1つに「男馬に負けない女馬」が普通になったという現象があります。医療や調教、人の進歩が一部の選ばれた女傑にのみ与えられる名誉を多くの女馬に広めたのです。凱旋門賞は牝馬と言われて久しい中、今年の筆頭はこの馬か。馬番4、ゲート3番。タルナワ。
●
地元フランスから参戦の4頭のうち、牝馬はこの馬。昨年の凱旋門賞は相棒のクリスチャン・デムーロを勝ち馬のソットサスに譲り、5着。今年の騎手は相棒に戻りようやく調子を取り戻したか。前走59キロを負担し勝利、今日は58キロ。条件は揃った、後は相手勝負。馬番6、ゲート15番、ラービアー。
英ダービーではアダイヤーに敗れ2着。最後のイギリス三冠の1つ、セントレジャーSではハリケーンレーンに敗れ2着。惜しいレースが続く中、鬱憤を晴らすなら大舞台で。父は凱旋門賞勝ち馬、母はアメリカ生まれ。最内枠から我慢我慢の強襲を狙うか。ゲート1番、馬番8。モジョスター。
かつてフランスがイギリスに対し世代の頂点を決めるべく開設したフランス三冠の1つパリ大賞典。今年はイギリスのハリケーンレーンに奪われ、5着と6着。前哨戦を1,2フィニッシュで調子を整え、雪辱を果たすならこの機会。まとめてごめんね、馬番9ベイビーライダーと馬番14バブルギフト。
世代1決定戦・英ダービーと、先輩馬との夏の芝2400、英国1決定戦キングジョージ(略)Sの勝ち馬。格の上では英国筆頭。父は14戦14勝、2年連続の欧州年度代表馬、Frankel。世界一の名門、ゴドルフィンが今年も文句なしの最高傑作を送り出します。馬番10ゲート11番、アダイヤー。
英ダービーはアダイヤーに敗れるも、アイルランドダービー、パリ大賞典で同世代を破り、英国三冠セントレジャーSに勝利。愛仏英で世代上位を証明したゴドルフィンの双璧。祖父シロッコと凱旋門で激突したハリケーンランと似た名のこの馬が海外1番人気。2番ゲート馬番11、ハリケーンレーン。
2歳時は圧勝を見せフランス世代代表馬。3歳の今年は勲章なし。日本でも穴馬に載せたら驚異の回収率ブロンデルを騎手にして地元馬が穴を開けるか?祖父Galireoが亡くなって群雄割拠の後継者争いに無名の父の援護射撃だ。馬番12、ゲート番10シリウェイ。
海外ではクロノジェネシスの下、6番人気。日本で単勝100倍台も、パリ大賞典3着、英国不良馬場での芝2400重賞勝ちは海外勢からは高い評価。ドイツで評価された父と、母方にもいるドイツ血統が日本人には地味に映るか。フランス生まれのイギリス育ち。馬番13、ゲート8番。アレンカー。
●
偉大な日本馬ディープインパクトが数世代残した欧州での娘が、イギリス、アイルランドで世代一の女馬を決める芝2400mオークスに圧勝で連勝。イギリスで先輩牝馬との交流戦でも勝利。日本近代競馬の結晶の最後の輝きを見せられるか?馬番15、ゲート番9。スノーフォール。
このコラムは、たけひささんよりご寄稿いただきました。
面白そう、書いてみたいと思われたかたは世話人に気軽にお声かけ下さい。Breakの集まりいずれかに、2回以上いらしたかた対象です。(詳細)